音楽図書館協議会:Music Library Association of Japan


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ニューグローブ世界音楽大事典の図書館利用における確認書廃止に関して

山角浩之( 文献社 代表)


はじめに

日本語版「ニューグローヴ世界音楽大事典」 の発売以来、ご購入頂く際に、個人を除く全て の図書館、団体及び法人と販売に当たる小社と の間で、著作権保護に関する「確認書」の取り 交わしをお願いしてまいりました。 この「確認書」は、本年11月1日付をもちま して廃止させていただきます。既に取り交わし た「確認書」は全て廃棄もしくはご希望により 返却させて頂く予定です。 今後は、“著作権保護”と‘‘図書館利用者の 利便性”との整合性をお考えの上で、著作権法 によって許される範囲内で、各図書館の良識に お任せいたしますので、よろしくご判断いただ きますようお願い申し上げます。

確認書取り交わしの背景

私共が、最初に「グローヴ音楽事典」の日 本語訳を企画したのは1978年頃です。その後 1980年、新生「ニューグローヴ苦楽事典」の 誕生を待ち下訳を試みたところ、日本語版の実 現にかなりの手応えを感じました。しかしなが ら、このような大事典の編纂には、監修者を含 めた編集委員会のオーガニゼーションが成否を 決めると言っても過言ではありません。幸い、 1983年に相談に伺った遠山一行先生から的確 なアドヴアイスを頂くことができ、正に日本の 音楽界を総動員するといった趣で取り組むこと ができました。特に1986年からは講談社の全 面的なバックアップもあり「原書」を超えた「日 本語版」の刊行が実現したわけです。 私どもが日本語版を企画した1978年頃、原 書の出版社であるマクミラン社が危倶していた ことは海賊版の横行でした。1954年に発行さ れた「グローヴ音楽事典 第5版」は、海賊版 がかなりの部数横行しており、その最大のマー ケットが日本であると思われていたふしもあ りました。また、この音楽事典は日本語版を含 め、スミ版一色刷りということと価格が高価な ため、海賊行為をされ易い要素が揃っていたと もいえます。 「ニューグローヴ世界音楽大事典」の刊行が 始まった1993年から完結に至る1995年頃、 日本国内における書籍や楽譜のコピーなどの 海賊行為は、欧州などの出版界で大きな問題と なっていました。経済や文化の大国として、あ るまじき行為と思われていたようです。当時、 私どもではパリ・オペラ座(ガルニエ)の本を 出版するため頻繁に渡仏しておりましたが、そ の際、日本からの音楽関係者がコピー譜等を 堂々と持ち歩いている姿を見て、オペラ座関係 者が首を振っている場面に出くわしたことが幾 度かあります。編集という作業のためには様々 な図版などをコピーする必要があるのですが、 国立オペラ座図書館にはコピー機がなく、事務 室に設置された唯一のコピー機(オリベッティ 社が見るに見かねて寄贈したそうです)を利用 させてもらったという経過があります。コピー 用紙を持参の上、スタッフの手の空いていると きにお願いする(我々はコピー機に触れること すらできません)。しかも一日に10枚までとい うおまけ付です。彼らが常に口を揃えて言う文 句があります。「コピーつて泥棒だろう」。

これは既に伝説的な話になってしまいました が、米国で毎年開催される音楽祭でのことです。 日本から参加した某大学の楽団が演奏するため ステージに上ったとき、はば全員がコピー譜を 使っていたため主催者が烈火のごとく怒り、即 刻演奏を中止させ楽団員をステージから下ろす というハプニングがあったそうです。 多分に誤解に基づく認識もあると思いますが、 欧州人からは日本人の著作権保護に対するモラ ル意識は相当に低いものと思われていました。

特に「ニューグローヴ世界音楽大事典」の場 合、原著作者が世界中にまたがるため、原書の 出版社としても著作権保護の問題を非常に危倶 しておりました。また当時、私共も自社制作し た専門家向けの映像ソフトを違法にダビングさ れるなど、著作権問題の真っ只中にあったとも いえます。日本語版の出版には巨費を要するこ とは明らかであり、安易にコピーが行われると いう当時の風潮には大いなる不安を感じていた ことも事実です。しかし、私共としてはこの事 典を日本語で読めるようにしたいということが 最優先の課題でした。そこで、書店や代理店に よる販売ではなく、「ドア・ツウ・ドア」によ る販売で購入者に直接著作権保護を訴える、即 ち著作権保護の責任を売り手である私共が負う ということで解決をはかったわけです。

確認書廃止に関して

「確認書」の取り交わしに閲しましては、多 くの図書館関係者の方々にご不快な思いを抱か せたことと推察しております。 しかし今日、著作権に関する意識は非常に高 まっており、デジタル化が進むにつれ著作権問 題もますます複椎になってきています。また、 学術文書などのコピーのファックス送信サービ スにも著作権料を徴収するなど、公衆送信権も 拡大されつつあります。一方では、前述のよう に過度な著作権保護も、文化の正常な発展を阻 害する恐れが当然あるわけです。 この音楽事典の場合、販売開始より10年、 全巻刊行より7年が経過しており、小社が負う べき売り手責任も既に消滅しております。「確認書」廃止に閲しましては、講談社からも了解 をいただきました。また、確認書が存在するが 故に、著作権法上明らかに合法と思われながら、 後難を避けるため複写サービスを一切行なわな い図書館もあると聞いております。最近では、 複写サービスが一切できないことから、頁の切 り取りなどの破損も増えるなど、破損巻のご注 文も増えるという皮肉な現象も起きています。

ネットサーヴィスの開始

私どもは日本語版の完結後、将来に備えデジ タル化の準備も行ってまいりました。講談社に おいても1999年頃にはデータベース化をほぼ 完了しており、CD−ROM化などの様々な方策 が狙上に上りましたが、いずれも物理的な理 由により実現しませんでした。最終的にネット サーヴィスが最も効果的であろうという結論に 至ったことは至極当然だといえます。特に、日 本語版の読者の方々には格安でネットサーヴィ スを提供する事でより一層この音楽事典をご活 用いただけるのではないかと考えたわけです。 しかし残念なことに、このアイデアは昨年 11月、原書の出版社であるマクミラン社より 厳しく拒絶された旨、講談社より報告がありま した。マクミラン社の世界戦略は英語版のネッ トサーヴィスを強力に推し進めることにあり、 進各国の中では日本だけがネットサーヴイスの利用者が極端に少ないという状況にあった とのことです。そのような状況下で、日本語版 りネット・叶ヴイスがスタートすると、はな .まだ困るということがその理由でした。来年3 日まではテストランとして日本語版のネット・ 叶ヴイスが行われますが、4月以降は英語版 のネットサーヴィスに組み込まれます。 

さいごに

 昨今の経済状況により、講談社においては 在庫負担を極力押さえるという経営方針を確定 しました。書籍の重版ロットは1000部単位で す。「ニューグローヴ世界音楽大事典」の場合、 1000セットの在庫負担は数億円となります0 私共としても巨額の在庫負担に耐えられるほ どの経常環境にはありません0現在の在庫が無 くなった後の重版は事実上不可能な状況です0 「ニューグローヴ世界音楽大事典」の日本語版 の入手をご希望の方は、お早めにお申し出下さ い。特別価格で提供させて頂きます。

 (やまずみひろゆき)

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