音楽図書館協議会:Music Library Association of Japan


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IAML2001PERIGUEUX

藤堂雍子(桐朋学園大学図書館)

1951年パリ会議で正式に発足し50年を経たことを期し、今年のIAMLはフランス南西部のペリグーで3年ぶりの会長選挙総会を兼ねた大会が開催された。

7月8日(日)の午前中から本部役員と支部役員によるカウンシル・ミーティング。冒頭に6月21日に亡くなったフランス国立図書館元音楽部長、かつドビュッシー研究や多くのフランス音楽資料編纂で知られているFr.ルジュールへの哀悼から始まった。主だったミーティングの項目を挙げる。1) 名誉会員に先のルジュール、コンピュータ目録に向けた各種音楽資料標準フォーマット(ISBN PM, NBM)作成に貢献のあったL.コーラル、A.レーンの3人を推挙、2) 次期本部事務長の候補者募集とそのコメント、3) 総会で発表される次期会長、副会長への投票にベルギー、オーストラリア、日本から選挙管理人3名を推挙、4)支部の単位を国だけでなく、地域支部を新たに設けるについて、規約改定を含めて意見聴取、5)19世紀楽譜出版カタログのデジタル化を進めてきたHofmeister Projectは作業の実質スタッフであるI. ザノスがベルリンから離れることになり、善後策として財源の確保も含め熟慮しなければならないこと、6)アウトリーチについては、ハンガリー、エジプト、インド、ロシア、ウクライナに対する援助報告、7)会議プログラムの構成について簡素化、重複主題を避ける工夫の必要性、支部報告を役員会ではなく、全員出席が建前のクロージング・セッションに置き換えるなどの説明と提案、8)新しいワーキング・グループとして目録委員会にメタ・データを基盤とした「国際典拠コントロール」プロジェクトを新たに作ることが米国支部長S.ヴェルッチから提議された、等である。オープニング・セレモニーがハーディーガーディの合奏で始まり、支部の会議参加補助基金での参加である佐古純子(関西フィルハーモニー)、末永理恵子(日本近代音楽館)の両氏と、高橋美都(京都市立芸大日本伝統音楽研究センター)の3名が初参加、上法茂、井上公子、關根敏子(RILM支部事務長)各氏と私を含めて7名が顔を揃えた。現場で仕事をしている若手3人が加わったことは心強く喜ばしい。北京、台北からも女性ライブラリアンが加わり、ごく自然にアジア同士の交流も始まった。

7月9日(月) フランスとポルトガルの書誌活動と題した書誌委員会のセッションは、D.アウスファッテル(パリ音楽院)が「フランスにおける音楽資料への新しいアクセス」と題し、図書館蔵書や各地域にある音楽資料の調査・記録化が15年前に目論まれ、RISMフランス支部、国際本部の両調査を兼ね、文化省の類種のプロジェクトとも併せて進められているが、近年多くの作業が遅滞していて、その大半の原因が組織の再編によること、コレクションの名称や特殊なジャンル・地域については、アーカイヴ目録のような索引化が有効で、新たな書誌プロジェクトとして出発すべきであると考えていること、が述べられた。フランス音楽学会のA.レドリッシュとリヨン音楽院のLラングィンは「ナディア ブーランジェ・コレクション:複合遺産」と題し、ナディアとその音楽一族の遺産であるコレクションの複雑な歴史背景と様態を解説、妹の夭折した作曲家リリーと姉ナディアの名を冠した国際財団が創設され(注1)、音楽教育に携わったナディアの幅広い活動の各地に分散されたコレクションを一体化することが目論まれている。その重要な一部、リヨン音楽院図書館には既に1980年代にナディアの遺産相続人から寄贈されたコレクションが蔵書の中核としてあり、目録をWebで公開している(注2)。この中には歌手であった祖母や、パリ音楽院で作曲家、合唱指導者であった父のコレクションも含まれ、時代の教養を裏付ける質の高いコレクションと、姉妹自身の自筆譜やパート譜が含まれていることが報告された。続いてC.ラティノ(ポルトガル国立図書館)から1991年に音楽部門に移転し、1997年に創設された「リスボンにある国立図書館音楽学研究センター」の17世紀から20世紀に及ぶ10万点の音楽資料概要を紹介した。音楽院、劇場の歴史コレクションを含み、国際的な関心を喚起する資料(例えば、ヴェルディのオペラ・マヌスクリプト)や、18-19世紀のポルトガルの作曲家達の作品などのユニークなコレクションがあることが披瀝された。研究図書館部会のセッションでは、フランス・オペラ・コレクションがテーマで、「パリ・オペラコミック・コレクション:目録の劇場性」と題し、18世紀から1970年代までのオペラコミック・コレクションの記録資料の多様性について、また資料の目録が制作・上演の過程にまで及ぶことをPh.ブレイ(国立図書館以下BN)が述べ、P.ヴィダル(BN)の「パリ・オペラ座博物館図書館:希少な研究サイト」に繋いだ。ガルニエ宮に位置するこの博物館図書館は、ミラノ・スカラ座、ブリュッセル・モネ劇場、パリのコメディ・フランセーズ劇場などのような劇場活動を基盤とする資料の保存、研究そして展示を主眼としたユニークな存在である。文書だけでなく楽譜、図像資料、アーティストの記録が主体で、劇場附属機関でありながら、1935年以降国立図書館音楽部門にも属している。続いて「ルイーズの周辺:音楽部門G.シャルパンティエ・コレクション」と題し、演目を例に一世を風靡したこの作品のもつ豊かな資料性を、録音資料(歌手N.ヴァラン、G.ティル、G.シャルパンティエ自身の初期蝋管、SP録音、録音技術の進歩の時代と重なっている)まで拡げ提示した。午後からの全員参加を建前としたセッションは、岸から岸へ:地中海音楽の変遷1000年と題され、前半が、「アラブ世界の音楽文献出版の歴史」(Ch.ポシェ、民族音楽学者)、「エジプトにおけるSP音楽アーカイブ」(Fr. ラグランジェ、パリ大学)、「アラブ・地中海音楽センターのエルランジェ男爵:そのコレクションと変遷」(H. トゥイユ、チュニジア・アラブ・地中海音楽センター )、後半が「モロッコ音楽院の音楽ドキュメンテーション:ラバ国立音楽院のケース」(M.ベッカ、同音楽院 )、「アンダルシア音楽ドキュメンテーション・センター」(E.V.ガルシア、グラナダ・アンダルシア音楽ドキュメンテーション・センター )「”World music”に位置づけられるフランスの伝統音楽から:録音資料に収録された新しい素材」(V.ジヌーヴ、エクス・アン・プロヴァンス地中海人文科学舎)がレポートされた。フランス南西部で、World musicの時代を迎えた会議であることが十分配慮されたプログラムで、1998年スペインでの会議でも感じたことだが、ラテンやアラブ音楽が依然未知の分野で、その広範囲な音楽文化が、イタリア、スペイン、フランスの大音楽家達の豊かな養分であることは、まだあまり検証されていないこと、等を書き留めておこう。夕方から町最古の聖エチエンヌ教会で催されたコンサートもトルバドゥール、アラブ、アンダルシアの音楽を中心に据えた歌とアンサンブルであった。

7月10日(火)アーカイヴとドキュメンテーション部会に出席し、パリの諸機関の紹介があったが、これはIAML 日本支部ニューズレターに末永理恵子氏がPre-Conference Tour の報告を書いておられるし、Fontesフランス特集号も既に刊行されたので重複を避ける。音楽教育機関図書館部会では、新たなテクノロジーを駆使しながら自治体や公立図書館とのネットワークを模索し、成果を挙げつつブーローニュ・ビアンクール音楽院(注3)の報告の後、創立100年を1995年に通過し、1997年に音楽院研究・出版センターを設立し、出版方針を新たにしたパリ音楽院(注4)が、Jeunes solistesと銘打ったCD、マスタークラスのビデオ、教材の復刻などをシリーズとして出版計画していることなどが紹介された。
音楽図書館における著作権はまだバランスのとれた合意が可能か? 著作権委員会のセッションは、WIPO、IFLA、EBLIDA(注5)の最新情報を交換することに費やされた。その中でもIFLAの提言、「著作権におけるIFLAの立場、とりわけ音楽に関連する、デジタル環境において」と題された英国国立図書館のG.コルニッシュの論考は一読に値する。これは同図書館音楽部門の著作権担当者によって代読されたが、ディベートの渦中にある図書館の立場、特に音楽資料に言及している点を列挙する。1)すべての人々にバランスのとれた著作権であること、 2)デジタル環境が特異なバランスを取っていることに異議申し立て(Digital is not different)、3)図書館のリソース・シェア(リソース・シェアはコスト削減のメカニズムが本旨ではない)、貸出、資料保存などの図書館本来の活動の正当性を説明、4)音楽が優れて国際言語であるという観点から、音楽資料は文学よりは国際法が国内法より有効であろう、5)IFLAは研究目的より、演奏上の音楽著作権管理の方がより明白な弱点を抱えていると認識している、6)先進国でさえ楽譜の入手は容易でなく、図書館貸出、[とりわけ欧米ではー訳者注]公共図書館での貸出に依存してるのが現実、その貸出制限には強く反対する、楽譜の普及の多くはむしろ図書館が負っている実状を著作権保持者は認識するべき、7) IFLAは、楽譜と録音資料には異なる制度が望ましいと理解している、何故なら楽譜のみ複写が可能な国があったり、その逆もあり、デジタル環境においては、現実のアウトプットは出版側から提供される方法よりはむしろ多く利用者によって評価されたテクノロジーで決定づけられている、などの点を指摘し、別に12項目に渡る原則をまとめている。 夕刻からIAML50年を記念し、コンサートとレセプション。長老格のH.ヘックマンが50本の蝋燭を吹き消したバースデー・ケーキが振る舞われ、50回の会議の模様の写真展(日本での会議や、スナップを撮り続けた私の提供した写真も含む)も色を添えた。

7月11日(水)は引き続き著作権委員会がラウンド・テーブルを設け、パリ・シネマ図書館、パリ弁護士会、国際レコード制作連合ヨーロッパ事務所、演奏家、国際音楽出版社協議会、作曲家(裁判で訴えられたトゥルーズ音楽院院長M.ブルーズが予定されていたが、微妙な立場にあることを考慮し、前日のコンサートの作曲者Fr.ロッセ)、音楽院図書館、の面々が出席してのディスカッションとなった。ここで全容を安易に紹介することは困難なので避けるが、著作権法がバランスの線引きであること、音楽資料の場合、国際的な「傘」が是非とも必要であること、来年の音楽教育機関図書館部会で、再度著作権がセッションのテーマとなるだろうことをお伝えしておこう。次の目録委員会では、特殊なコレクションへの特別な目録と題し、研究図書館部会で報告された「オペラ座博物館図書館の目録法」について、P.ジラール(BN)が、国立図書館Web目録OPALINEの解説。責任者表示は作曲者、台本作者、演出家、舞台装置・舞台照明家まで及んで記述、目録記述というよりドキュメント記録に匹敵する注記がこの目録の生命であることが窺われる。E.ミッサゥイ(BN)は、1830-1930年に出版された「Les Cartons-piano」コレクションが、19世紀フランス・ブルジョワジーの音楽(とりわけ、他の楽器より優位にあり、誰でも弾けたピアノ)文化が反映されていることを、時代の趣味を色濃く残した絵の施された楽譜の表紙などをOHPで見せながらのプレゼンテーション。水曜日の午後は恒例のエクスカションで、ドルトーニュ渓谷や、クロマニヨンの里、ワイナリー・ツァーをしり目にペリグーの町中に点在するガロア・ロマン、ルネサンス様式、ゴチック、等々の遺跡、建物を見て歩くツアーに参加。

7月12日(木)午前8時半に集合、会長選挙の投票集計。誰よりも早く次期会長・副会長を知る栄誉(?)のために会議事務局メンバーを含む4人のチームで11時まで選挙集計の作業に追われ、本部事務長に報告した後、音楽教育機関図書館部会とオーケストラ・ライブラリーの協力と銘打った合同セッションにすべり込む。ロシアのモスクワ音楽院、放送局、セントペテルスブルクのオーケストラ・ライブラリー事情をE.ラッシーナ(モスクワ音楽院)が話し、A.エスコット(王立音楽院、ロンドン)は音楽学校でのオーケストラ・トレーニングが、英国では、職業オーケストラとの協力関係なしには考えられないほどであることを事例で示した。プロ・オーケストラリハーサルに学生が立ち会ったり、プロ奏者と並んで吹奏楽を同じステージで演奏し、地方では高学年の音楽学生がプロ・オーケストラに定期的に加わることもあり、教育プログラムが年間スケジュールとして定着している。音楽学生のみならず、子供達のための特別プログラムなど、将来の一般音楽愛好家育成にも繋がっている。オーケストラ・ライブラリーも例外ではない。この分野でのユニオン・カタログが国公私立図書館、音楽学校を含むオーケストラ・ライブラリーをカバーしていることは既に知られているし、リソース・シェアに至っていることは予想していたが、現実の協力関係は推測を超えているというのが実感。佐古純子氏(関西フィル)は事前のアンケートを踏まえ、日本の実状と傾向をレポートされた。特に学校オーケストラでは、ライブラリアンとして位置つけられていない兼務スタッフで切り盛りしていたり、委嘱作オリジナルを所蔵していても、目録も公開されていないことが普通である。東京では音楽大学オーケストラ競演のコンサートが年1回開催され始めた昨今ではあるが、プロ・オーケストラと学生が同じステージで演奏することは[エキス]トラであり、イレギュラーな特別な催しであり、楽譜をシェアすることは、私的行為を越えていない。北欧では、オーケストラ・ライブラリアン(学校、職業オーケストラを含む)の協会が近年設立され(Association of Nordic Orchestra Librarians)、いろいろ目論まれているが活動はこれから。北米のプロ・オーケストラ協会(MOLA)のメンバーで、文化庁派遣でニューヨーク・フィルに研修留学経験を持つ佐古さんの今後の活躍が期待されるところ。RIdIMのセッションでは高橋美都さんも京都市立大での活動や準備されている音楽図像学プロジェクトの国際会合を紹介し、ケンブリッジ大学の旧知のライブラリアンは大学の日本伝統音楽コレクションについて直接聴ける日本人がやっと来た、と喜んでいた。 日本への関心と期待は決して少なくない。総会が午後から始まり、選挙結果が公表された。会長 J.ロバーツ(カリフォルニア大学バークレイ校音楽図書館長)、副会長にD.アウスファッテル(パリ音楽院館長)、F.リバ(パルマ音楽院、音楽教育機関図書幹部会座長)、K.フォスーエレアソン(デンマーク、公共図書館部会座長)、R.ヘレン(英国、元英国支部長)ら4名。再来年以降の会議日程はIAML本部HPを参照(注6)していただくとして、来年は8月4日ー9日サンフランシスコにあるカリフォルニア大学バークレイ校で催される。夕闇迫るころから聖フロント教会でオルガンコンサート、大小のパイプ・オルガンを弾きわけてのレクチャー・コンサートは深夜まで続いた。

7月13日(金)クロージング・セッションでは、各国支部報告の一環として日本支部活動報告。国際音楽学会シンポジウムや京都市立芸術大学の音楽図像学プロジェクトにも触れたが、肝心の音楽図書館界は表面的にはOPAC、ホームページの数こそ増えてはいるが、試練の時を通過中というコメントに留めた。
古いシャトー・カーヴでのフェアウェル・ディナーでワインとフォアグラを楽しみつつ、来年の会議に向けて準備のやりとりが既に始まっていることもお伝えしておこう。

注1 www.fondation.boulanger.com ブーランジェ財団HP 
注2 www.cnsm-lyon.fr/ リヨン音楽院HP
注3 www.boulognebillancourt.com/ ブーローニュ・ビランクール市と同音楽院共同HP
注4 www.cnsmmp.fr パリ音楽院図書館HP
注5 European Bureau of Library, Information and Documentation Associations
注6www.cilea.it/music/iaml/Mtil/index.htm IAML 音楽教育機関図書館部会HP              

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