音楽図書館協議会:Music Library Association of Japan


<報告・論文・情報


音楽図書館協議会研修セミナー

シンポジウム
日本の音楽資料・情報を考える
(参照・文化庁「音楽情報・資料の保存と活用に関する調査研究」)
 
 
日時   2007年11月10日(土)午後1時30分〜4時30分
     会場   東京音楽大学A館 地下会議室(A地下100)
     共催   日本音楽学会関東支部
           IAML(国際音楽資料情報協会)日本支部
     参会者  80名

パネリスト    小倉信宏(文化庁)
          長木誠司(東京大学)
          松浦淳子(国立音楽大学)
          大幸直子(国立国会図書館)
          金澤正剛(国際基督教大学名誉教授)
コメンテータ   柄田明美(ニッセイ基礎研究所)
司 会      林淑姫(日本近代音楽館)

       
【企画趣旨】
音楽研究の基礎を形成する資料・情報の収集整理は、音楽大学図書館、専門資料館を中心として積極的に進められてきた。諸機関が所蔵する資料の概要についても現今のIT環境のなかで次第に明らかにされつつある。しかし、日本における音楽資料の収集と整理は、研究の多様化、多岐にわたる音楽諸活動に対して必ずしも十分に対応しているとはいい難い。「南葵音楽文庫」をはじめ、日本国内に散在するヨーロッパ古典作品の手稿譜や19世紀以前の印刷譜(国際音楽資料総目録RISM収録対象)、日本伝統音楽や近代洋楽資(史)料、日本の作曲家の作品、日々生産されている音楽活動情報、それらはどのように把捉、整理、保存され、共通の文化資産として、また研究資料として活用されるべきか。私達は今、多くの課題を抱えている。
日本における音楽資料の収集、整理の方向性についての論議は折に触れて展開されてきた。とりわけ2005年度日本音楽学会全国大会におけるシンポジウムは、多岐にわたる音楽資料の現状について問題提起を行い、再検討を促した。ほぼ同時期に開始された文化庁委嘱「音楽情報・資料の保存と活用に関する調査研究」(ニッセイ基礎研究所)は、国立国会図書館をはじめとする図書館、資料館はもとより、JASRAC 、現音、国立劇場、演奏連盟、レコード協会、音楽出版協会など、種々の音楽機関団体によるデータ情報、資料に対する取り組みを総合的に調査、その実態を明らかにするとともに、欧米主要機関の現地調査をも踏まえて課題を分析し、今後の方向性に示唆を与えている。政府機関による史上初の音楽資料関係調査として、また調査自体の質と規模において、大いに注目されてよい。
本シンポジウムは、この文化庁調査を参照しつつ、今後の課題について検討する。音楽資料・情報ともっとも密接な関係を有する三つの団体―日本音楽学会関東支部、音楽図書館協議会、IAML(国際音楽資料情報協会)日本支部―の共催が実現している。パネリストの発言に加えて参加者からの積極的な意見を求め、公開討論の場としたい。


1.小倉信宏(文化庁文化部芸術文化課芸術文化調査官)
「音楽情報・資料の保存及び活用に関する調査研究[報告書]−2006年度調査」(文化庁委嘱調査 ニッセイ基礎研究所)

 この調査は、平成17〜18年度にニッセイ基礎研究所に委嘱して行われたものである。音楽資料全体を見渡した調査・報告となっている。
 この調査研究は2ヵ年の継続調査であり、初年度にあたる2005年度は、国内の音楽に関する情報・資料類の収集や保存、活用に関する実態を把握するため、(1)音楽情報・資料の体系整理(マッピング)、(2)音楽情報・資料を収集、保存、活用する団体へのアンケート調査、(3)分野別主要団体へのインタビュー調査、という三つの手法で調査をおこなった。(2)で実施したアンケートへの回答数は、概数で、図書館が210、演奏団体が1200、メディア事業者が220を超え、全体で1650以上の回答を得た。このアンケートの回答結果により、それぞれの収集に対する立場の違いが現れたので、主要団体にインタビューを行った。
 2年度にあたる2006年度は、(1)海外主要国における参考事例研究を実施するとともに、(2)各分野の専門家による懇談会、専門研究会を開催して議論を重ね、わが国の音楽情報・資料の収集や保存、活用に関する望ましい方向性と具体化に向けた取り組みや方策を検討した。
 その調査の過程で、(1)人材(2)保存媒体(3)検索システム混在など、様々な問題があぶりだされてきた。また、(資料に対する)価値判断の難しさを痛感した。切捨てには覚悟がいる。研究者にとどまらず、音楽資料は社会的な財産であるということをアピールするにはどうしたらいいか考えなくてはいけない。情報の共有という意味でよい資料ができたと思う。

2.長木誠司(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
「文化庁調査をめぐって」

 音楽情報・資料と言うとき、形になっているものと形になっていないものがある。
 まず、2005年度の文化庁調査で、多岐にわたる対象がここまで体系整理(マッピング)できた成果は大きい。難度の高い調査であったことだろう。しかしマッピングでまとめられたものは、調査対象となり得るものであり、この対象から洩れる情報があることも頭に入れておかなければいけない。
 たとえば、どこにでもある資料ではあるが、ある著名な作曲者が持っていたということによって特別な価値があるかどうか、そういうものも収集の対象とするかどうか等は、価値基準の取捨選択の問題である。また、どこに保存するかという問題もある。
 今回の調査報告を見てみると、海外の図書館に較べて、日本の国会図書館は音楽関係の資料はあまり収集していないようだ。海外の図書館は、自国の作曲家の手稿譜を積極的に集めている。海外の主要図書館と日本の国会図書館を較べた表を見てみると、日本の国会図書館だけ手稿譜に関する方針が抜け落ちている。
 音楽図書館には、所蔵しているのにインフォメーション化されていないのでわからないというものがたくさんあるのではないか。人員や経費の問題で厳しいのはわかるが、所蔵しているものは整理して情報化してほしい。また、メディア事業者も、貴重な資料・情報をかなり持っているのではないか。公開にあたっては、著作権問題をもう少しクリアにしないと進まないであろう。
 せっかくこういう調査報告を作ったのだから、見たい人が広く見ることができるようにしてほしい。

3.松浦淳子(国立音楽大学附属図書館主任司書)
「音楽大学の図書館の立場から」

 音楽図書館と言っても、大学図書館と専門図書館では機能が異なる。大学図書館の第一の役割は大学教育の支援である。学問の多様化に対応するため、収集する資料は音楽資料のみというわけにいかない。
 音楽図書館協議会では、1970年代から、加盟機関の所蔵を調査した所在目録を刊行してきた。しかしその後、OPACや国立情報学研究所による総合目録の普及に伴って、音楽図書館協議会加盟館だけの所在目録の刊行は行われなくなった。その後の音楽図書館の連携としては、たとえば、国立音楽大学、東京音楽大学、日本近代音楽館が協力して日本の古い音楽雑誌のマイクロ化を進めた活動等、実現できたものもある。
 しかし、目録の標準化、システムの標準化に関しては、音楽図書館の連携は実現できておらず、各館がそれぞれデータベース化している。音楽図書館協議会加盟館のOPACをトータルで検索することは、現状ではできない。
 各音楽大学が年史を刊行しているなかで、音楽界の歴史が明らかになることがある。ところが、自分の大学の演奏会であっても、ポスターやちらしやプログラムが保存されていないことがある。自分のところの資料は責任をもって保存していくことが重要だと痛感している。

4.大幸直子(国立国会図書館電子資料課長)
「国立国会図書館における音楽資料の取組み」

 国立国会図書館の音楽資料の所蔵概要、保存環境、利用状況、利用方法、レファレンスの状況について報告があった。国立国会図書館では、ポピュラー音楽の利用が最も多く、次にクラシック音楽、演歌、邦楽と続く。収集は納本制度に基づき、従来のカード目録とCDデータベースはすべてNDL−OPACに移行した。現在未整理になっている資料は平成19年度〜20年度に入力する予定である。
 当面の課題として、納本の促進、未所蔵のアナログレコードの寄贈受入、書誌データの整備と拡充、多様な媒体への対応、音源複写、保存、非図書資料のデジタル化の検討、歴史的音盤アーカイブ推進協議会事業等が挙げられる。

5.金澤正剛(国際基督教大学名誉教授)
「音楽資料・情報の現状と課題」

 音楽資料・情報については多くの課題を抱えているが、それぞれの立場でできるところから実行する以外に方法はない。また、優先順位を考えることも大切。公的施設が所蔵しているもの、あるいは印刷されているもの(複数あるもの)は、一応安心である。しかし、ひとつしかない手稿譜やオリジナルで、しかも個人が所有しているものは非常に心配である。自分が貴重な資料を持っているのに気が付かないということもあるだろう。
 南葵文庫をはじめとする個人所有物は公開されていないし、天皇家(宮内庁)、邦楽の家元などは貴重な資料を持っているに違いないが、どういうふうに保存されているのかわからない。個人の所有物に関しては、所有者の意識を高めることが重要である。自分が貴重な資料を持っていないか調べてみることが必要。

6.柄田明美(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト)
「文化庁調査をめぐって」

 ハードルの高い調査だった。音楽資料・情報が非常に多様であることを知った。調査を通して、わが国の文化財としての音楽資料・情報の重要性を実感した。報告書のなかで、その重要性をいかに喚起していくべきかを提案している。海外では、国が収集方針にイニシアティヴをとっているが、日本はその点が弱い。貴重な資料、緊急性の高い資料をどのように残していくかが課題。

7.フロアからの意見と質疑応答
◆フロア:日本近代音楽館は日本の作曲家の手稿譜を収集・管理しているが、日本近代音楽館
 は財団法人ながら、財政的には、実質、個人によって維持されている機関である。こういう事業
 は国家が行うべきではないか。
◆小倉(文化庁):個人や個人の機関が貴重資料を保管してくださるのは、国としては有難い。そ
 れをすべて国がやるとしたら資金がかかり過ぎるので、対象資料を限定せざるを得なくなる。
 逆に責任を果たし切れなくなるのではないか。
◆フロア:文化庁の調査報告のなかで、今後の課題として「ミュージック・ライブラリアンの育成」
 が挙げられているが、ミュージック・ライブラリアンが育ったとしても、それを雇用する受け皿が
 ないと思う。
◆フロア:国会図書館の音楽資料への取り組みをうかがっても、録音資料や映像資料について
 ばかりの報告で、楽譜に対する取り組みは見えてこない。楽譜についてはどうなっているのか。
◆大幸(国会図書館):海外の出版物は、国会の調査に必要なもの以外は原則として購入してい
 ない。国内出版の楽譜は納本制度によって収集することになっているが、穴があいているよう
 だ。納本率を調査しようとしているが、それを出すのはかなり難しく、今のところどの程度集まっ
 ているのかわからない。
◆フロア:国立国会図書館法が世間に知られていない。楽譜の出版業界関係者で、国立国会図
 書館の納本制度について知っている人がどれ程いるだろうか。楽譜出版業界に、国会図書館
 からもっとアピールがあってよい。
 ISMN(国際標準楽譜番号)についても、日本の楽譜出版業界は関心を示さない。日本人の作
 品は、日本語という言葉の壁があるので、ISMNで検索できるようになったら便利だろうと思う。
 また、楽譜出版社で、所有権と著作権を混同しているところがある。
◆大幸(国会図書館):楽譜出版協会などに納本制度を呼びかける機会をもてるように検討す
 る。

8.高桑いづみ(国立文化財機構東京文化財研究所無形文化遺産部)
「日本伝統音楽・伝統芸能関係の資料」

 文化財研究所は文化庁の付属機関であり、文化庁の立場を踏まえながら伝統音楽の研究もしている中間的立場である。ふだんは研究者の立場から、文化庁へ意見を述べている。
 文化庁の姿勢は、「記録をとったらそれで終わり」というふうに見受けられるが、それでは困る。たとえば、文化庁の前身である文化財保護委員会が、能、平家琵琶、声明について記録をとってSPレコードにしたが、その後の処置をしていない。1979〜1999年には、文化庁民謡緊急調査を行ったが、調査をして報告を出してしまったらそれで終わりである。取った記録はどうするのかと思うが、「あればいい。ものはあるが聞けない。公にできない」というのが文化庁の姿勢である。SPレコードの劣化はまだそれほど深刻ではないが、オープンリール、カセットテープは劣化が進むままに放置されている。文化庁の姿勢を変えてほしい。
 音源資料のデジタル化、整理は1990年代からようやく始まったばかりである。
 紙媒体について言えば、ジャンルによって温度差がある。オリジナルの資料は、ジャンルごとにそれぞれの場所で所蔵している。家元制度の功罪がある。家元制度がないジャンルの場合、資料が散逸してしまうこともある。家元制度がある場合、かたくなな家元もあるが、研究者との連携がうまくいっているジャンルもある。伝統芸能の実際の継承者とどうコンタクトをとるかが課題。
 演奏会の資料は、資料として大事だという意識が薄く、まとめて収集しているところがない。

9.長谷川由美子(国立音楽大学附属図書館)
「RISMへのデータ提供」

 国立音楽大学図書館では、2006年10月から2007年5月までの間に、140冊、380曲の筆写譜のデータをRISMへ提出した。大半は18世紀のイタリアオペラの全曲スコアやアリア集である。作成したインチピットは533にのぼった。
 最初から筆写譜のデータ提供を考えていたわけではなかったが、RISMオンラインにある筆写譜のデータを使って図書館内の目録作業に取り組んでいくうちに、作曲者が判明したり間違いを訂正できたり、アリアの歌いだししかわからなかった多くの曲のオペラの題名が判明したりして、インチピット付きの目録の威力を改めて認識した。また反対に、RISMオンラインでは作者不詳とされていた曲の作曲者や題名が当館の資料で判明した場合もあった。
 今回整理した楽譜の大半は現代譜がない。筆写譜を所蔵している機関は、自ら名乗り出て相手国に知らせると同時に、広くその情報をRISMのような国際機関で公開すべきだと痛感した。そこで、整理したデータをRISMへ提供することを考えるようになり、RISM側との折衝を行い、学内で了解をとった。
 RISMへのデータ提供は、現時点では各国のRISM支部から本部へデータを送付する形をとっているが、それぞれの団体や個人から、マニュアルにしたがって直接本部へ送る形に変わる予定である。また、現在はドイツ語版のマニュアルしか公開されていないが、日本語版の準備も進められている。RISMの筆写譜のデータは、現在は有料でしか利用できないが、2009年にはバイエルン州立図書館から無料配布される予定である。つまり、ネットの環境があれば、誰でも本部にデータを送ることができるようになる。


最後に
司会者より、「このテーマは今回一回のシンポジウムで終わるべきものではなく、今後とも継続して検討する機会をもちたい」という発言をもって閉会となった。
 

文責:池田 典子(東京音楽大学付属図書館)
 

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